持続可能な観光開発

ツーリズムEXPOジャパン2016、グローバル・ツーリズム・フォーラム、日本・東京、2016922日開催、基調講演

本保さん、ありがとうございます。田村長官、日本の変わらぬ真摯な観光産業への取り組み、日本が実現した素晴らしい成果に敬意を表します。デイビッド・スコースィル氏と私は、双子の兄弟のようなもので、デイビッドは民間の立場、私は官の立場から、我々二人で、官民のパートナーシップの実例を示し、周囲に「官民の協力は効果があるんだ」と感じていただけるよう、頑張っています。

田川さん、年々、進化するこのイベントに言葉を失います。毎回、参加するたびに完成度の高さに驚きますが、次の年には、官民からのサポートを拡大し、さらに大盛況となっています。世界中から多くの大臣や参加者が集まり、ここで一堂に会していることが、日本への敬意の深さをよく示していると思います。

会場の皆様、現代のミラクル都市、東京をまた訪れることができてうれしいです。今朝の雨も、日本の友人たちのように穏やかで、晴れた日とはまた違った美しい景色を見せてくれました。懸念されていた台風さえも、日本に敬意を示し、進路を変更してくれたようです。

 

外客誘致目標の上方修正を歓迎 

東京には、間もなく、その魅力を世界に披露する絶好のチャンスが巡ってきます。2020年のオリンピック・パラリンピック開催で、世界中の視線がここに注がれます。 今から2020年までの日々は、大切な一歩一歩になります。日本が世界の観光産業のリーダーという役割を確立するのに、機は熟したといえます。また日本の皆様は、国際観光とは何か、よく理解していらっしゃいます。

ここ数年で、日本の官民の努力は見事に実を結びました。昨年、日本を訪れた外国人旅行者数は1970万人、ほぼ2000万人に届きました。田川さんもご指摘の通り、3年前の2013 年、私はこの場に立っていて、「2020年までに外客2000万人を誘致する」との目標を聞き、「3000万人を目標にしてはどうか」と少々、挑発的な発言をしました。確か、デイビッド・スコースィルも一緒だったと思います。しかし現在の状況をとてもうれしく思います。日本政府が目標を「2020年までに4000万人、2030年までに6000万人」と上方修正したことも非常に喜ばしい。田村長官、きっと日本は新しい目標も超えてしまうと断言します。

今年も驚くべき勢いで成長が続いています。1~8月累計の訪日外客数は1600万人。 昨年の成長率は前年比47%増と、世界でも特筆すべきレベルでしたが、今年はそれをさらに上回る勢いです。UNWTOは日本が描く未来像に賛同し、目標達成へと歩み続ける日本に寄り添い、あらゆるサポートを惜しまないと明言いたします。

 

繁栄に伴う責任を直視しよう 

ただし成長に伴い、責任も重くなります。これは日本だけでなく、世界中の課題です。

ですから日本の皆様が、観光産業の持続可能な発展に注目していることを嬉しく思います。今、この問題に目を向けることはとても重要です。気が付いた時には手遅れになってしまう場合もあります。成功の果実に酔うあまり、未来像を描くことを忘れ、大切な点を見落としてしまうのです。

現在、世界全体での海外旅行人口は年間12億人。7人に1人が海外旅行するようになりましたが、わずか66年前の1950年、海外旅行人口は2200万人でした。爆発的な市場の拡大に伴い、観光産業のGDPや雇用規模は拡大し、今や観光は、世界の主要産業です。詳しい統計数字は、デイビッド・スコースィルが後ほど説明してくれると思います。

私からここでお伝えしたいのは、たった一つ。観光産業は、世界を変容させてしまう甚大なパワーを持つようになった、ということです。我々は、世界をよりよい方向へ変えられるよう、行動する義務を背負うようになったという現実です。

観光産業が、いかに大きく重要であるか、と説いて回った時代から、さらに一歩進み、観光産業が世界をよりよくするのに役立つことを、我々が実際に体現していく段階に至ったと思うのです。ただ単に、魅力的な観光地作りを目指すのにとどまらず、観光が、未来の発展を促すパートナーになり得ると、人々に理解してもらう必要があります。

どうしたら観光の重要性を実感してもらえるでしょうか。一番よい方法は、人々の日常の暮らしの中で、個人にとっても、社会にとっても、観光が重要な役割を果たすようになることです。

pixabay Gerd Altmann (2)

手つかずのままの10億人市場

旅行を楽しみ、世界中の美しい場所を満喫することは、誰もが有している権利ですが、残念ながら、この権利を奪われている人たちがいます。この美しい世界をもっと楽しみましょう。かつて、旅行は一部の恵まれた人々だけの贅沢でしたが、今や誰もが与えられた権利です。自由に出かけてリラックスし、興味ある体験をし、人々と交流する、あるいはビジネスをする権利があるのです。

しかし、実は今でも、他の人たちのように、観光地に出かけたり、旅行サービスを利用することが難しい人がいます。観光する権利があるのに、無視されたままの人が決して少なくありません。

例えば、何かしらの体の不自由を抱えた人の数は、世界全体で約10億人、全人口の15%を占めます。この人々は、旅行するのが難しい状況に置き去りにされたままです。

また、日本でも世界でも人口の高齢化が進み、年齢とともに、旅行が自由に楽しめなくなる人もいます。長生きするようになり、80歳、90歳でも荷物を持って旅行に出かける人がいる時代です。高齢になっても、今まで通り、旅行を楽しめるように対応することが求められています。

世界の人口に占める60歳以上の割合は、2000年は11%でしたが、2050年には倍増の22%になると予測されています。つまり将来的には、さらに20億人もの人々が、旅行をあまり楽しめなくなるかもしれないのです。

誰もが旅を満喫できるようにすること、これは9月27日にタイで開催する今年の「ワールド・ツーリズム・デイ」のテーマでもあります。今回のスローガンは「Tourism for All( みんなの観光)」。誰でも旅行を楽しめる世の中を実現すること、この恩恵は、旅行者だけが享受するのではありません。ビジネスの面から考えても、これだけの市場が放り出されたまま、手つかずになっているわけです。視野を広げてください。世の中をよくするだけでなく、観光産業のビジネスモデルとしても理に適った取り組みではないでしょうか。

 

伊勢志摩のバリアフリー化は模範的事例

誰でも楽しめる旅行を提供すること、つまりアクセシビリティが、持続可能な観光を実現する上でのチャレンジであり、大至急、取り組まなくてはいけない課題であるとご理解いただけたと思います。例えば観光地を一年中、楽しめる場所にできないでしょうか。新しい収入源を生み出し、雇用機会の増加にもつながります。雨でも晴れでも雪でも、人々が移動したり、滞在を楽しんだりできるようになってほしいと思います。

日本にも素晴らしい事例があります。今夏、G7サミットの舞台となった伊勢志摩では、開催に向けた準備の中で、誰もが自由に移動できる地域作りがテーマとなり、地元の自治体や民間団体が協力し、車いすでも移動できるバリアフリーのツアー・センターなどが整備されました。UNWTOでは、この取り組みを非常に高く評価しており、「Good Practices in the Accessible Tourism Supply Chain( アクセシブル・ツーリズムのサプライチェーンに関する模範的な事例)」として紹介しています。

 

 

 

アクセシブル・ツーリズム実現のステップ

最後に、この後のディスカッションで、アクセシブル・ツーリズムについて考える際、参考になりそうな4つのアイデアをご紹介します。

①「みんなの観光」を実現するには、まずプランニングの第一段階から、考え方を今までとは変えてください。例えば、まずホテルを建て、完成したら車いすでの移動方法を考えるのではなく、着工する前の段階から、どのような要望があるか、細かいところまでしっかり考えてください。サービス提供者やデスティネーション関係者が、特定のアクセス補助が必要な旅行者に、これまでとは違う旅行を楽しんでもらうんだ、と強く決意することが必要です。こうした姿勢が定着すれば、さまざまな問題の解決も、さほど難しくはなくなります。

② 我々は皆、何かしら多少の不自由を抱えながら暮らしています。不自由さの内容は、人によって異なり、レベルもさまざまですが、そこに線を引いて区別するのは無用なことです。よく聞こえない、よく見えない、食べ物のアレルギー、歩く時の不自由など、広い意味で考えれば、10億人、全体の15%を占める体の不自由な人に限らず、誰もが何かしらのハンディキャップを抱えているのです。この事実をよく理解しないと、本当の意味で、アクセシブルな対応を理解することができません。

③ テクノロジーをもっと積極的に活用しましょう。例えば、既存の技術を使って、アクセシブルな交通機関を網羅したオンライン・ネットワークを構築することもできます。バーチャルリアリティ(VR)技術は、実にさまざまな分野で活用できるはずです。デイビッド・スコースィル氏は「世界のいろいろな産業に比べ、我々の観光産業は、イノベーションに消極的だ」と言います。人類が月面に降り立ったのと、スーツケースに車輪を2つ付けたのと、どちらが先だったかというと、月面着陸のほうが早かったそうです。(スーツケースの)車輪が4つになったのは、さらにもっと後です。もっとイノベーションを活用し、発想を柔軟に転換していくべきです。

④ 旅行の出発から到着まで、旅行のバリュー・チェーン(価値連鎖)の一部ではなく、全ての部分で、アクセシビリティを充実させてください。例えばホテルの客室のドアを、車いすが通るのに十分な広さにした、というだけでは駄目です。空港に到着した瞬間から、バスの乗り降り、次のデスティネーションに移動するまでと、あらゆる場面を想定して対応してください。どこかに対応が不十分なパーツが残っていると、結果として全てが台無しです。

Verena Timtschenko nature

2017年は国連「持続可能な観光の年」

2030年には、世界の海外旅行人口は18億人になると予測しています。つまり18億回の機会が我々を待っています。持続可能で、インクルーシブ(受け入れ地域を巻き込んだ形)であり、責任ある旅を提供するチャンスです。

このチャンスを、世界をよりよい方向へ動かす場として活かせるかどうか、それは我々次第です。持続可能で公正な世界を実現するために、ともにアクセシビリティ改善に取り組みましょう。「世界をよりよくするために我々がいるのだ」とのスローガンをみんなで掲げましょう。それぞれの立場や仕事の内容は異なりますが、常に「どうすれば、世界に貢献できるだろう」と問い続けてください。その気持ちを忘れてしまうと、我々の産業の意義はなくなってしまいます。

来年2017年は、国連のニューヨーク総会で、「International Year of Sustainable Tourism for Development( 持続可能な国際観光年)」に定められました。国際社会が、観光産業の重要な存在意義をグローバル・レベルで認識したのは、これが初めてです。観光産業が、持続可能な経済成長、文化や環境の保護、相互理解と平和、そしてより暮らしやすい世の中をもたらすことを広く知ってもらい、世界中でお祝いする一年になります。観光が有する甚大なパワー、人類と地球にとって、よりよき未来に向けて世界を変革し得る力を

活かしましょう。野心的になってください。

広い視点で考えてください。我々の産業界のことだけ見ていればよいのではありません。我々の産業がこれからの社会を動かすのです。

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